クライアントのご実家である大きな旧家、そのすぐ隣脇に、この小さな箱は建っています。全く違う様式でつくられた2つの建物ですが、白壁と鎧張りという共通の技法を用いたことで、外観に統一感と、調和する関係性をつくりだすことができました。
この家はクライアントと一匹の猫が暮らすことを前提としています。ご要望は「ワンルームの暮らし」。中心となるリビングにはロフトをつくり、適度な天井高と空間ヴォリュームを割り当てました。さらに南面に広がる竹林の風景を大開口から取り込み、人と猫が立体的につながる動線を仕込みました。
室内はさまざまな場所やレベルからうつろいゆく風景を感じ、またお互いの存在を確認しあえることで、人と猫がより豊かに共存できる空間ができるのではないかと考えました。
Data
Detail
リビング・ダイニング・キッチン
T邸の中心となるリビング・ダイニング・キッチン。壁に設置された濃茶の板は、キャットタワーからロフトへと繋がるキャットウォーク。
リビング・ダイニング・キッチン
奥の白い収納棚は、LDKとウォークインクローゼットを隔てる壁の役目も持っている。収納箱の脇に階段があり、その上のロフトへと続く。
ロフト
ロフトを寝室として使用することで、Tさんが希望していた「ワンルーム」の暮らし」がほぼ実現されている。ロフトの下はウォークインクローゼット。
キャットタワー
T邸のもうひとりの住人、猫のクラウディア。床とキャットウォークを繋ぐキャットタワーでポーズをとる。
洗面所
水周り。壁は緑色に塗られ、凝った意匠の鏡が目を引く。疲れて帰ってきたときに癒してくれそうな空間。
トイレ・洗濯物干し場
洗面所より濃い緑の壁を持つトイレ。その横は洗濯物を干すことのできる小さなスペースが設けられている。
平面図
- Ba 浴室
- BR 寝室
- C クローゼット
- CT キャットタワー
- CW キャットウォーク
- E 玄関
- LDK リビング・ダイニング・キッチン
- Lo ロフト
- LR 洗濯室
- V 吹き抜け
特別記事: ひとりの大人と一匹の猫の共同生活。
「大人と猫が快適に過ごせるワンルーム」という要望から提案された2つのプラン。ひとつは予算に合わせた現実的なプラン。もうひとつは予算は合わないものの「これはどうだ」という建築家の意思の入ったプラン。施主のTさんはすぐに後者を選んだ。なぜ自分がPLUS CASAに依頼しているかをきちんと理解し、強く持ち、それがブレない人なのだ。
「潔い人、再び。だなあ」
Tさんの話を聞きながらそう思った。再び、というのはclear:03のK邸取材時も同じように感じたからで、聞けば、「ホームページで見たK邸が気に入ってPLUS CASAに頼みました」とのこと。
Tさんにはさらに、軽やかさも加わっている気がした。PLUS CASAの小林が以前、「衣服をまとうように家を建てる」というようなことを話していたことがあるが、それを体現しているような印象だ。
2階にレイアウトされた大きなリビング・ダイニング。まるで絵画のように竹林が切り取られた窓景は、T邸を訪れた人を驚かせる要素のひとつだ。この大きな出窓は当初、生活利便性を考慮されてベランダのかたちで提案されていた。Tさんはここを室内にしてほしいと依頼する。
「リビングは広いほうがいいじゃないですか」
何とも明確な理由だ。出窓の反対側にあるロフトも、もともと独立した部屋として提案されていたが、これも同様の理由で、現在のプランになっている。
生活の中心となる2階部分。床は濃茶で壁は白。素材感はなるべく排除した、洗練されたトーン。1階のトイレや風呂、洗濯室などは壁が緑色に塗られ、暖色系の色と相まって、暖かい雰囲気。それぞれが明確なポリシーと理由によって決められている。
「これもいいけど、あれも残したい」といった悩みは、家を建てる際には消えることのないものだろう。Tさんにもあったに違いないが、それを感じさせない明快さ。結果的にシンプルで、潔ぎのよい、気持ちのよい空間ができあがった。
「家にいると幸せになる」
Tさんだけでなく、同居する猫のクラウディアもそう言っているかのように、満足げにキャットタワーの上であくびをした。
Other
この作品掲載の無料情報誌 MAGAZINE PLUS CASAは07号です。ご希望の方には無料で郵送しております。