建築とキャンプ – 小林和生モノローグ

建築とキャンプ - 小林和生モノローグ

PLUS CASAの代表を務める小林和生は、大のキャンプ好きだ。
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キャンプは、その日の寝床となる場所を決め、雨露をしのぐためのテントを張る。明かりを灯し、調理して食事をとり、横になって眠る — 正に生活の縮図だ。
建築家 小林和生にとってキャンプの魅力は何か、キャンプと建築の関係性などについて聞いた。

まずは彼がどんなキャンプを楽しんでいるのか、動画をご覧いただこう。

建築家 小林和生から見たキャンプの魅力は

和多瀬キャンプを始めたキッカケを教えてください。

小林約20年前(2001年)、智頭にUターンしたとき、利佳が「キャンプしたい!」と言い出したんです。それで道具を揃え始めて、ファミリーキャンプを楽しんでいました。その後、子どもたちが成長して部活などが忙しくなり、一緒に行く時間がなくなってきた7年ほど前からは、ソロ(一人)で行くようになりましたね。

和多瀬小林さんにとって、キャンプの魅力は何ですか?

小林ファミリーキャンプとソロキャンプでは楽しみ方が違いますが、いま僕が楽しんでいるソロキャンプで言えば、山の奥地、川や湖のほとり、海の砂浜など、住宅はとても建てられそうもない環境でも、キャンプならできるというところです。

和多瀬おっしゃったような場所は、家を建てて暮らすという視点ではまず選べないロケーションですよね。

小林建築は失敗できませんが、キャンプならやり直せる。いろいろな環境を試せる、挑戦できるという点が僕にとって最大の魅力ですね。

和多瀬動画でも山奥でキャンプされてましたが、一般的なキャンプ場で、ではないんですね。

小林はい。ありのままの自然を感じられる場所でのんびり過ごすキャンプが一番好きですね。

和多瀬キャンプに何を求めていますか?

小林いろいろありますが、一番は刺激です。

和多瀬刺激。

小林はい、日常では感じられない五感への刺激を求めているんだと思います。気温が氷点下まで下がるような真冬に、真っ白な雪の上でやるキャンプは正しく非日常で、大好きです。

和多瀬かなり刺激的な体験になりそうですが、不安はないですか?

小林もちろん念入りに準備しますよ。ただやっぱり、不測の事態が起きることもあります。しかしこれが次への学びになる。キャンプでは失敗を恐れず、いろんな感覚を経験してみたいと思っています。

和多瀬キャンプで一番好きな時間はありますか?

小林刺激を求めて、と言った後で矛盾するような話ではありますが、ぼーっとする時間ですね(笑)。ふだんの生活や仕事から離れて、自然の中でぼーっとする時間がとても好きです。

建築家という職業とキャンプ

和多瀬建築家という職業が、キャンプという趣味に影響を与えていると感じることはありますか?

小林雨風をしのぐため自然に対して対策を講じるという点で、キャンプと建築は同じだと思います。季節や天候によって、どのテントで、どういう場所で、どの方角を向くと快適に過ごせるのかなどの考え方は、建築での経験が生かされているのかもしれません。

和多瀬では逆に、キャンプが建築家という職業に影響を与えましたか?

小林人間が豊かに暮らす上で、自然が身近に感じられることは大切だと、より強く思うようになりました。

和多瀬「豊かな暮らし」はPLUS CASAが大切にしているテーマでもありますよね。

小林最近、建築業界ではエアコン1台で家中の温度が一年を通じて一定となるようにと、断熱性能を高めて窓の大きさまでもできる限り小さくして、24時間換気で機械的に空気を入れ換えていくという、高気密高断熱の家が主流になりつつあります。

和多瀬環境問題の深刻化によって住宅に求められる省エネ性能は高まってますよね。

小林それはそれで建築が進化した一つのカタチ、時代の要請に応えた結果である事は間違いないと思います。でも僕にはどうしても、それが自然を排除し、人間の感覚を閉ざしていくように思えてならないんです。

和多瀬住空間と自然を切り離す……キャンプとは真逆の考え方ですね。

小林その流れの先に、人間が本当に豊かに暮らせる空間が存在するのか、疑問に感じることもあります。もしキャンプをしていなかったら、そんなことは思わなかったのかもしれませんね。

和多瀬一方で、世の中は大変なキャンプブームで、コロナ禍もあって野外で過ごす人が増えています。小林さんはご趣味がキャンプですし、仕事とキャンプを絡めてみたら面白いと思うのですが。

小林実際にキャンプ場やキャンプ道具のプランニングに建築家が関わったりする事例は出てきているようです。キャンプではありませんが、僕たちにも、利用客が安心して楽しめるような店外のスペースを提案してほしいといった話も飲食店からいただいたりしていますね。もちろん僕個人も、キャンプ場の計画に携われたら面白いだろうなと考えないわけではありませんが、キャンプを仕事にしてしまうと純粋に楽しめなくなるのでは、という不安がありますね(笑)。

和多瀬趣味が趣味でなくなってしまいますもんね。

小林ええ。キャンプする中で自然と得た気づきを建築に活用するのと、最初から「何か得なければ」というスタンスでキャンプをするのとでは全く違いますからね。

地元の自然に対する見方は変わったか

和多瀬鳥取県は自然が豊かですが、そんな中でも、山間部に位置する智頭町はより自然環境に恵まれた場所です。しかし多くの人にとって自然は、ただそこにあるものです。

小林単に自然が近くにあるだけでは、魅力に気づきにくいのかも知れません。地元の山や森だけでなく、車で1時間以内に海や川など、智頭の周辺には美しい自然がたくさんあります。それをいつでも気軽に楽しめる、恵まれた環境で暮らしていることに、キャンプをしていなければ僕も気づいていなかったでしょうね。

和多瀬やはり智頭町内の山などでもキャンプされるんですか?

小林はい。以前はより良いロケーションを求めて遠出もしていましたが、最近は近くの山でもやったりしますね。やっぱり近くて便利ですし(笑)。でも、それもあって、より地元にある自然を大切にしないとと考えるようになりましたね。

和多瀬昔からそこにあり、これからも当たり前のように続いていくものだと考えてしまいがちですよね。

小林実際はそうではないんですけどね。キャンプをしていると、不法投棄や漂着したゴミで汚れている場所に出くわすことがあり、非常に残念な気持ちになります。

和多瀬遠くで見ていると分かりませんが、近づいてみるとゴミだらけというところは多いですよね。

小林キャンプをはじめたころ先輩キャンパーに教わったことですが、 “来た時よりも美しく”を自分のルールとしています。キャンプをすることで少しでも自然の美化につながればいいなと思いながら、ゴミを見つけた時はできるかぎり持ち帰るようにしています。

お気に入りのキャンプ道具は?

和多瀬最後に、小林さんのお気に入りのキャンプ道具を教えてください。

小林今はククサです。ソロキャンプを始めたころから、デザインが好きで持っていたのですが、手入れのために表面に塗るオイルで、コーヒーやビールの味が変わってしまうのが難点だったんです。

和多瀬自然の中で飲むコーヒーやビールは、キャンプの醍醐味ですもんね。

小林最近それに利佳が漆を塗ってくれたんです。味に影響を与えなくなっただけでなく、質感がとても気に入っています。自然の中、このククサでコーヒーや大好きなタルマーリービールをを飲むと最高なんです。

文章・動画作成: 和多瀬 彰