敷地は鳥取市内の低層住宅が建ち並ぶ、間口5.5m奥行42mの南北に長い形状。隣地の空地も将来建つ可能性を見据え、この敷地で外部に開くことは適当ではないと判断し、別の方法で開放性とプライバシー確保をバランスよく得ることができないかと考えました。
そこで敷地境界を壁で囲み外からの視線は遮断、壁に沿って南北に中庭を配し、全ての部屋に均等に光と風を取り込む計画としました。
午前中は壁面がレフ板効果をし、柔らかい反射光が室内を包み込む。午後は壁により光量を抑えられた直射日光を取り込む。夕焼けの日には、壁面も橙色に染まる。夜が明け陽が沈むまでの光の角度や陰影、一年を通じて光で感じる四季の移ろい。それらを生活の一部として感じ、流れゆく風景のように楽しむ豊かさを求めました。
Data
Detail
玄関
白い壁と黒いタイルで引き締められた空間に、ナラの床や梁が暖かみを加える。正面のドアは中庭、右の通路はリビングの入り口。
書斎
仕事に集中できるよう、中庭を挟んで空間的には隔離しつつ、視覚的には繋がるレイアウト。可動書架も設置されている。
廊下
玄関を入ると、奥の寝室まで続く、一直線の長い長い廊下が姿を見せる。写真は、奥の寝室から玄関を見たところ。
リビング
天井の梁がアクセントになったリビング。中庭に面した窓から光の差す、明るい空間。手前右は、床や梁と同じナラで制作された、作り付けのテレビ台。
洗面所
大きな鏡、たくさんの自然光、重厚且つシャープなデザインの洗面台。その他の居室と同じナラ材が使用されているため、統一感がある。
洗濯物干し場
廊下から中庭へと続く廊下が、洗濯物干し場を兼ねる。風も良く抜けるため、洗濯物もよく乾く。掛けるポールの位置で日干し、陰干しを選択できる。
中庭
白い壁と青い空のコントラストが美しい中庭。プライバシーを確保しつつ、光や風を内部に取り入れるための場所でもある。
中庭(夜)
夕方、書斎から見たリビングと中庭。物理的に離れていても、白い壁に映る各居室の光が、家族の息遣いを伝える。
平面図
- Ba 浴室
- BR 寝室
- C 収納
- CCy 中庭
- De 書斎
- E 玄関
- K キッチン
- L リビング
- Lp 洗濯物干し場
- P 駐車場
特別記事: 長い家。
廊下は、人や物が移動するためにある。学校においては次の授業へ、会社であれば通常の業務から会議へといった具合に、気持ちや状況の切り替えに有効な装置でもある。
S邸には、長短、2つの廊下がある。いずれの廊下もリビングが起点となっていて、長いものは風呂や洗面所、クローゼットや寝室へ、短いものは玄関、書斎へと続いている。
長い廊下に沿って配置された個々の居室は、1日の生活動線、たとえば、起きて顔を洗い、着替え、朝食をとって出かけるといった流れに自然なかたちで、縦長の土地形状を活かして明快にレイアウトされている。曖昧になりがち、また散らかりがちな、生活を構成する要素や行動の場を、廊下で分離しつつ繋げることで、うまく整理している。
短い廊下を通ってアプローチする書斎は、玄関も経由するため、まるで一度母屋から出て離れに行くような印象だ。自宅にいながら仕事に集中したあとは、ふたたび玄関と廊下を通ることで、家族との日常生活の場であるリビングにしっかりリセットして戻ることができそうだ。
もう一つの廊下とも言える中庭の通路と、白い内壁は、プライバシーを確保しながら光や風を内部に運ぶだけでなく、家族気配を各部屋に伝え、それぞれをゆるやかに繋ぐ役目も持つ。
S邸では、廊下が本来の役割に加え、日常を整理し、部屋と、そして家族を繋ぐ装置として機能していた。
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