いのちね

中国山地に囲まれ、面積の93%を山林が占める人口約5,800人の町、鳥取県智頭町。
その東南端に位置する山郷集落において、築100年を超える古民家を改修し、自然の中でいのちを迎える場として、2017年に「助産院いのちね」が開院しました。

人口減少と高齢化が進む中山間地域では、総合病院や福祉施設といった基幹的なサービスの維持が難しくなっており、医療やケアの機能を地域の中でいかに支えていくか、が大きな課題となっています。

本計画は、既存の助産院を起点に、「いのちは生と死の循環の中にある」という思想のもと、お産から看取りまで、人生のさまざまな時間に寄り添い、地域の安心を支える場として構想されました。
私たちは「ゆりかごから墓場まで」を主題に、医療福祉・温浴・宿泊機能を併せ持つ複合施設において、いのちの多様性を建築として表現することを目指しました。

当初計画されていた鉄骨造2階建ての単体建築に対し、豊かな山間の集落景観や地形に呼応するよう、木造平屋の分棟形式へと再構成しました。
医療福祉、温浴、宿泊という異なる用途ごとに建築を敷地内に分散し、それらを遊歩道や広場、既存古民家、周辺の自然環境と連続させることで、敷地全体をひとつの有機的なまとまりとして捉えています。

医療福祉施設は子宮、温浴施設は乳房、宿泊施設は頬を寄せ合う三つ子をモチーフとし、それぞれは独立した建築でありながら、身体の一部のように互いに関係し合い、敷地全体で、いのちを包むひとつの「からだ」をつくる。
小さな建築が田園の中に横たわり、人や自然とともにひとつの輪郭を描くその姿を、私たちはどこかダイダラボッチのような、おおらかな風景として捉えました。

医療福祉施設 デイサービスやすらぎ

温浴施設 せせらぎの湯

宿泊施設 こもれびの宿

ここには、産前産後の家族が滞在し、地域の高齢者が訪れ、森のようちえんの子どもたちが走り回る。また旅人が宿に泊まり、温浴施設では地域の人々とともにくつろぐ。
敷地内にはいたるところで草花が自生し、虫が集まり、夜間に訪れた野生動物の痕跡が残るなど、自然の気配が日常の中に息づいています。異なる世代や立場の人々が交差し、それぞれの時間を過ごすなかで、互いに出産を喜び、死を悼み合いながら、生まれ、営み、やがて死へと向かういのちの連なりを、豊かな日常の風景として感じ取ることができます。

デイサービスやすらぎ

せせらぎの湯

こもれびの宿

建築もまた自然環境の一部としてさまざまなことを受容し、育み、人や動植物とともに循環の中にあります。人の営みや自然の変化を受け止めながら、使われ、手を入れられ、記憶を重ねることで、少しずつその土地の風景になっていく。

いのちね」が、いのちと地域の循環の中にあり続けること。
そして私たち自身もこの町に暮らし続け、この場所に継続的に関わりながら、地域とともに時間を重ねていく。
その積み重ねの先に、この場所が地域から長く愛されること。そして、この小さな集落での営みが、人口減少や高齢化が進む地域のあり方の一例となり、日本各地の中山間地が抱える課題に向き合う一つの糸口となることを願っています。

一般社団法人 助産院いのちね
住所:〒689-1423 鳥取県八頭郡智頭町中原359
TEL : 0858-71-0369

ドローン撮影:O2LABO企画

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