ところが、あるクライアントから「私たちが求めるのは白い家じゃないけど、依頼してもいいですか?」と尋ねられたことがありました。
意図しないところで、仕事の幅を狭めてしまっている状況を知ったのです。「xylo-(キシロ)」シリーズをつくったのは、そのような背景の中で、「どんな要望にもお応えします」という、私たちのスタンスの表明でもありました。
出来上がった作品を、白い家は「clear」、木の家は「xylo-」シリーズに分けたことは、クライアントにとって漠然とした好みをわたしたちに伝える手助けになったようです。また、わたしたちが一つのスタイルにこだわっていないことを伝える意味での効果もありました。
その一方で、出来上がった作品をシリーズに割り振ることに抵抗を感じていました。それは、わたしたちの建築に対する考え方に、この10年間で少し変化が現れたことも影響しています。
今思えば、建築家として正しいと思う提案を、一方的に説得していた時期もありました。
しかし、人の価値観が実に多様であることを実感していくうちに、要望をしっかり受け止め、本質的に何を求められているのかをじっくり読み解き、そこから見つけたヒントを基にデザインしていくようになりました。その過程に今まで以上の時間をかけるようになってから、わたしたちの二人の思考だけではたどり着けなかった答えを見つけられるようになったと思います。
既存のスタイルにクライアントが合わせるのではなく、クライアント独自のライフスタイルにフィットする建築を一作、一作つくりたいのです。10人のクライアントから依頼があれば、10通りのスタイルを提案し喜んでもらうことが、わたしたちの目指す建築なのです。
そんなことを考えている中、ついにどちらのシリーズにも当てはまらない、2つの作品が完成しました。「黒いclear(case-K/N)」と「白いxylo-(case-H/A)」とも言える作品です。シリーズを増やすべきか、「clear」と「xylo-」の定義を広げるべきかと悩みましたが、これを機会に両シリーズでの振り分けをやめることを決断しました。
これまで、この愛称に親しんでいただいた方には申し訳ありませんが、このようなわたしたちの現状と未来を考えて出した答えです。
今後の作品名は、
case – 作品の建つ土地のイニシャル / クライアントのイニシャル
といたします。「この土地に建つ、このクライアントのための家」という意味を持つ新しい作品名は、敷地条件等も含め作品の立地とクライアントの個性、この2つを大切にした家づくりをしたいというわたしたちのスタンスを表すものです。過去の作品についても、すべて適用することにしました。
シリーズにとらわれることなく、今まで以上に個性ある作品群として発表し、建築の楽しさと可能性をもっと広げていけるよう精励していきますので、今後共どうぞよろしくお願いいたします。
2013年3月
PLUS CASA 小林 和生、小林 利佳